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第5回 ニューロリハビリテーションを推進する

リハビリテーションの現場から
~日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)~

日本医科大学千葉北総病院
リハビリテーション科
部長・教授:原 行弘 氏
ニューロリハビリテーションに裏付けを与えたNIRS(光トポグラフィー)

ところで、筋肉や神経に電気刺激を与えてマヒした手足を動かすという方法は20世紀初頭から世界中で行われていました。電気刺激を加えることで、マヒした筋肉が動くことが知られていたからです。原先生も、十年以上前から電気刺激の研究に取り組み、人間が筋肉を動かそうとする意志がスイッチになる電気刺激パラメーター「随意運動介助型電気刺激装置(IVES/以下IVES)」のプロトタイプを用いた研究をすすめてきました。

「ただし、手が動いた時に脳がどうなっているのかはわかりませんでした。科学的裏付けがないまま治療を試みていたわけです」(原先生)。

脳卒中、頭部外傷、認知症などのリハビリ

このような悩みを解決したのは1990年代後半に登場したNIRS(光トポグラフィー)です。NIRSは、脳の血流が上昇しているかどうか、すなわち脳神経活動が活発化しているかを調べられる機械です。脳の血流をはかる方法は、機能的MRIや特殊な薬品注射を必要とする画像検査などいくつかありましたが、いずれも、患者さんは機械の中に入ってほとんど動かない状態でいる必要がありました。それに対して、NIRSは、リハビリしている最中に血流を測れるという画期的な機械です。余談ですが、様々な脳トレグッズがでてきたこともNIRSの登場が一つのきっかけです。

ここで、ちょっと手が動く仕組みをおさらいしておきましょう。手を動かすためには、脳の運動野から、筋肉を動かそうとする電気信号がニューロンを伝わります。この「運動の伝令」を錐体路という神経伝導路を通じて末梢神経を介して筋肉まで伝えます。このような回路のどこか(主に脳)に障害ができることでマヒがおこります。その回路を復活させるために、電気刺激が利用されるわけです。

「実際に電気刺激に効果があるのか」「様々な電気刺激の中で、どのやり方で一番効果があるのか」といった疑問は、NIRSで実際に脳血流を計測することで解決の糸口が見えてきます。

電気刺激の利用
電気刺激の利用

原先生は、
①単純な電気刺激をマヒ筋に与える。
②本人の意志でマヒ筋を動かす。
③筋電図の量に比例して電気刺激が与えられる。(IVES)
上記の3つを比較しました。
すると、圧倒的に脳血流の賦活が多かったのはIVESを使った③のケースでした。
次が②で、古典的な①は、脳の血流がほとんど増えなかったそうです。

この実験を通じて、IVESの脳賦活に対する有効性が証明されたので、患者さんも安心して、この治療方法を選べるようになったわけです。

(取材・編集:リハビリネット編集部)

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先生の紹介

原 行弘 氏

原 行弘 氏

<日本医科大学千葉北総病院 リハビリテーション科 部長・教授>

経歴
1985年 慶應義塾大学医学部卒業
慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室入局
慶應義塾大学医学部付属病院で研修医、専修医修了
1994年 慶應義塾大学医学部付属病院リハビリテーション科医長
1995年 ニュージャージー医科歯科大学リハビリテーション医学教室留学
1997年 国立療養所村山病院医長
2000年 東京都リハビリテーション病院医長
2001年 日本医科大学千葉北総病院リハビリテーション科部長・助教授
2007年 日本医科大学千葉北総病院リハビリテーション科教授
病院の紹介

日本医科大学千葉北総病院

〒270-1694
千葉県印西市鎌苅1715
tel:0476-99-1111
http://hokuso-h.nms.ac.jp/

<特徴>
日本医科大学千葉北総病院・リハビリ科は、脳の再構築を促すニューロリハビリテーションの推進で全国に知られています。最近では、脳卒中や頭部外傷などによって認知症に近い症状が出る、高次脳機能障害のリハビリにも取り組んでいます。