第4回
新たな生活を想定した訓練
このようなリハビリ体制を構築している石川理事長は、医療界に向けてリハビリテーションの重要性を長年にわたって説きつづけてきましたが、4人に1人が65歳以上という高齢社会を迎え、その重要性はますます増していると強調します。
「これまでの医療は薬や医療技術の進歩によって大きく発展してきましたが、寝たきりの高齢者にいくら薬を投与しても限界があります。本人が立ち上がる意志をもち、歩き、生活を送るにはリハビリが必要なのです」
ただ石川理事長は、リハビリテーションは他の医療と大きな違いがあると指摘します。「これまでは薬を投与したり、手術したりといった具合に医療提供者側の考えや思いが重要でした。ところが、リハビリはそうは行きません。医療提供者側の思いだけで何とかなるものではないのです。改善に向けた本人の意志、意欲が欠かせません。中には意識障害があるケースもあり、モチベーションアップには時間も掛かりますが、疾患に加えて障害を抱えている人に『何とかしよう』という意欲を持っていただくことが極めて重要です」
そうした患者さん自身のやる気が第一で、その後に初めて障害や疾患を改善する治療があると説明します。「医療提供者はこれまで、患者さんを直したいという思いさえあれば十分だったかもしれませんが、これからの高齢社会では患者さん自身に『良くなりたい』と思ってもらう、やる気を引き出す役割も求められます」と説明します。
入浴回数を増やすことを重視
同院では、そうした石川理事長の思いを具現化した取り組みが随所に見られます。その一つが「患者の生活」に比重を置いた治療方針です。「生活」を思い起こしてもらうことが、患者さんが意欲的にリハビリに臨むためのきっかけになるからです。たとえば「なるべく入浴回数を増やす」ことをとても重視します。入院期間中はどうしても入浴も制限されがちで、それによってだんだん治癒に向けた意欲も減退してきてしまいますが、元気な時は常に行っていた入浴を増やしていくことで気持ちも高揚していき、日常生活への復帰に意欲を見せるというのです。
入院食も同様です。石川理事長は、病院開設前に訪問したある介護施設での体験談を語ります。「利用者さんにオムレツが出されるというので、私も食べてみたのですが、私が好きなオムレツとどうも味が違う。不思議に思って尋ねてみると、パックされた冷凍のオムレツを電子レンジで温めたものだったのです。衛生面に配慮したためということでしたが、率直に言ってまずいのです。美味しい食事が患者さんの意欲をどれだけ引き出すかは、身をもって経験をしていましたから、当院の患者さんにはそんなものを食べさせてはいけないと誓ったのです」
そうした「食へのこだわり」から、同院の入院食は開院以来、すべて病院専従の常勤スタッフが調理しています。「病院経営の面からは必ずしもプラスになるわけではありませんが、患者さんのやる気を引き出す大きなポイントです」と語ります。
また食事の時間は、患者さんに最適なリハビリメニューを組むための絶好の機会と言います。中枢神経系の疾患を患った人は特に、嚥下機能や摂食機能の低下が見られますが、その際にその患者さんがどの程度のことをできるかを確認するチャンスというのです。
このほかにも排泄では介助はなるべく抑え、患者さんが自分の力でトイレに行くよう支援するなど、日常生活への復帰を念頭に置いた入院生活を提供しているのです。
(取材・編集:リハビリネット編集部)
石川 誠 氏
<医療法人社団輝生会
初台リハビリテーション病院 理事長・院長>
全国回復期リハビリテーション病棟協議会理事長
医療法人社団輝生会
初台リハビリテーション病院
〒151-0071
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<特徴>
急性期病院から発症後1カ月以内に患者を受け入れ、住み慣れた地域や自宅で輝いて生活してもらうために、十分な回復期のリハビリテーション医療を提供しています。