前章で、実際の乳がんにはいろいろなものがあると紹介しました。そのため、有効な薬を選ぶためや治療後(予後)の予測をしたりするために分類が行われます。
基本的には、増殖を促す物質が見られるか、あるいは増殖能力がどれくらいあるかなど、そのがん細胞の持つ性質によって分けられています。
そうした乳がんを調べる代表的なものとしては「女性ホルモン受容体」と「HER2(ハーツー)タンパク」があります。
女性ホルモン受容体とは、女性ホルモンと結合するタンパク質のことで、がん細胞の核に現れることが多く、数が増えると陽性となります。乳がんに関していえば、「エストロゲン受容体(ER)」と「プロゲステロン受容体(PgR)」が女性ホルモンに反応することが知られていますが、現在は、ERだけで陽性か陰性かが判断されるようになっています。
一方、HER2は、がん細胞の表面に発生するタンパク質の一種です。これが多いと、がん細胞の増殖が促されるといわれています。さらに、再発リスクも高くなるとも考えられていますが、現在は、がん専用の薬である分子標的治療薬(「トラスツズマブ」など)が開発されていることもあって、再発防止などに効果が現れています。
また最近では、がん細胞の遺伝子を解析(遺伝子検査)することで、エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2が腫瘍細胞に発現していない乳がん、いわゆる「トリプルネガティブ」なども、より細分化されるようになってきています。
なお、こうした乳がんは、がん細胞が乳腺内にとどまっていて、しこりが見られない「0期」から、離れた臓器に転移している「Ⅳ期」まで、その進行の度合いによった5つのステージに分けられています(Ⅱ期は、しこりの大きさやリンパ節の転移の有無によってⅡA期とⅡB期に分けられ、さらにⅢ期は、しこりの固定位置やリンパ節の転移の有無などによってⅢA期、ⅢB期、ⅢC期に分類されます)。
仁尾 義則 氏
<乳腺外科医>
医療法人喜水会 乳腺外科 仁尾クリニック 院長