退院にあたっては医師やリハビリテーションスタッフから現在の状態などについて説明を受けることになりますが、ここで気を付けなければならないのは「病院が治療という目的のための機能を備えた、日常生活の延長線上にはない特別な場所である」ということです。
リハ室は寝返りの打ちやすい固いマット、しっかり握れる平行棒が完備されているなど、“完備された特殊な環境”です。そういう状況と、フカフカの布団が用意され、手すりも所々にしかついていない家という、環境の違いは十分理解しておかなければなりません。
食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動を「ADL」(Activities of Daily Living)と呼び、それぞれについて自立/一部介助/全介助のいずれかであるか評価することで障害者や高齢者の生活自立度を表現します。その評価にあたっても、医療施設と自宅とではかならずしも受け止め方が同一ではないことに留意しなければいけません。実際、リハビリテーション施設などでは可能なADLは「できるADL」、実生活でも可能なADLを「しているADL」と分けて考えることもあります。
これに「実社会」という尺度も加わります。たとえば「靴下をはく」という行為があったとします。単なる「履ける」という言葉だけでは、認識のずれが生じかねません。病院は何分かかっても「履ける」ための訓練をし、その結果、何分かかっても履けるようになれば「履ける」と評価します。ところが、日常生活で靴下を履くのに5~10分もかかっているようでは、「履ける」うちに入りません。こうした「評価」そのものへの留意も必要です。
宮崎陽夫氏
理学療法士
医療法人社団誠馨会総泉病院リハビリテーション部部長