「(3)手術療法とは(その②)」で紹介しましたように、前十字靱帯の損傷の再建手術として選択されることが多くなっているのが、下記に紹介するハムストリング腱(STG)を用いた手術です。
●ハムストリング腱(STG)を用いる方法
膝の内側には、膝を曲げる筋肉、腱があります。
その腱の中で、膝を深く曲げるときに使われる半腱様筋腱(もしくは)薄筋腱の一部を採取して折りたたみ、前十字靭帯の変わりに移植(スクリューやステープルで固定)します。
この移植される腱の大腿骨側には人工靭帯が付けられます。そして、大腿骨には、その端に付けられた金属(エンドボタン)で固定します。また脛骨側は、直接、小さな鎹(ステープル)で留めます。
この方法の最大の利点は、骨付き膝蓋腱(BTB)を用いる場合と同様に十分に太い靭帯が作成できる反面、骨付き膝蓋腱よりも手術の傷が小さいことです。さらに、より正常靭帯に近い機能が得られながらも腱を切り取った部分に痛みが残ることが少ないのも大きな利点と言えます。その他、痛みが少ないため筋力回復が早いことや2重束再建ができるなどの利点もあります。
もちろん短所もあります。
最大のものは、一時的に膝を深く曲げる力(屈筋力)が弱まることがあげられます。
しかしこれは、術後のリハビリテーションで十分に修復することが可能です。
また、骨付き膝蓋腱(BTB)の場合は“骨と骨”を結合させるのでくっつくのが早かったのですが、ハムストリング腱(STG)の場合は“腱と骨”ですから、少しくっつくのに時間がかかります。また、くっつくのが遅くなった時に、大腿骨に掘った穴が大きくなること(骨孔の拡大)することがあるのも短所と言えるかもしれません。
中山 寛 氏
兵庫医科大学 整形外科 助教