脳に送られている血液が何らかの理由によって届かなくなり、その先の神経細胞が壊死してしまうことで引き起こされる「脳梗塞」。箸を持ったり、物を噛んで飲み込んだりといったような、私たちが健康な状態であれば普通にできた動作ができなくなるおそれがあります。なぜなら、こうした日常的な動きは、実際には複雑であり、それを脳が、それと気づかせることなく働いて実現させていたからです。
ところが、脳梗塞によって、そうした動きを制御していた脳の働きが止まってしまうため、何気なくできていたことができなくなります。これが、いわゆる「後遺症」です。
ただし、脳梗塞が起こる場所は決まっていないため、後遺症の種類も患者さんによって異なります。脳のどこに出血や梗塞が起こるかによって、出現する後遺症は違ってきます。それでも多くの場合、言葉の障害や片方の手足の麻痺、視覚障害などが多くみられ (詳しくは(2)で紹介)、いずれの場合においても、日常生活に大きな影響が出ます。
ただし、脳卒中になったからといって、絶対に後遺症が残るわけではありません。例えば、脳梗塞が起こった範囲が小さかったりした時や、発作が出てもすぐに治療した場合は、ほとんど後遺症が残らないこともあります。実際、ある統計によると、脳卒中を発症した人の約60%に後遺症が残ると報告されています。
もっとも、こうした肉体的な障害の他にも、後遺症によって、今までで普通にできていたことができなくなったことが引き金になったり、あるいは、脳の機能が損傷したりしたことで鬱病になったりする場合もあるので、用心は必要です。
正門 由久 氏
<リハビリテーション科専門医>
東海大学医学部 専門診療学系 リハビリテーション科学 教授