どんな病気もそうですが、何の原因も無く、突然に病で倒れるといことは、まずありません。それは脳梗塞も同じで、多くの場合、起きる前に何らかの兆候がみられます。
そうした兆候としては、代表的なものには顔や手足が麻痺した感じになったり、片側しか動かせなくなったり、あるいは、上手くしゃべれなくなったりすることが挙げられます。これらの中でも、言語に関して言えば、いわゆる『呂律が回らなくなる』症状が出る他、他の人の言うことが分からなかったり、片方の手足に力が入らなかったりするなどがみられた場合は、脳梗塞を疑ってみましょう。
そして、これらの代表的な例の他にも、片方からヨダレが垂れてしまったり、急なめまいや立ちくらみが起こったり、障害物がないのにつまずいたり、あるいは両目共に視界の同じ側が見えなくなったりするなどの兆候がみられることもあります。
これらの症状は「TIA(一過性脳虚血発作)」と呼ばれます。『一過性』というだけに、多くの場合、2分から15分ほどで症状が消えるため、つい「大丈夫だろう」と見逃してしまいがちです。
しかし実際には、体内では既に異常が起こっていて、多くの場合は、脳血管が血栓で一時的に詰まっているために、こうした症状が現れるわけです。しばらくすると回復するのは、たまたま、詰まった血栓が取り除かれたためです。そうした症状が起こった原因が取り除かれたわけではないのですから、そのままにしておくと180日(3か月)以内に、最大約20%の確率で脳梗塞が発生することが分かっています。
最後に主なTIAをまとめると、(1)顔(表情)に歪みがみられる、(2)どちらかの片腕が上げようとしても上がらない、(3)口が上手く動かせず、ろれつが回らないということになります。もし、自分や家族で、そうした症状がみられた場合は、すぐに救急車を呼ぶか、あるいは症状が治まったら神経内科や脳外科で、できるだけ早く診断を受けるようにしましょう。
正門 由久 氏
<リハビリテーション科専門医>
東海大学医学部 専門診療学系 リハビリテーション科学 教授