(1)で紹介しましたように、身体の正常な働きを阻害し、機能を失わせる細胞が「がん細胞」です。遺伝子が傷つくことで生み出されるため、理論的には、全ての細胞に発生する可能性があります。しかし、心臓のように成長してしまうと新しい細胞に変わることが少ない臓器などには、ほとんど発生しません。
一方、肺や胃のように、どんどん新しい細胞が生み出されている臓器などは、それだけがん細胞の発生が起こる可能性が高くなります。そうした箇所の1つに乳房があります。
乳房にできたがんは「乳がん」と呼ばれ、そのほとんどが女性に発生します(男性の発生率は約1%)。少し前までは、日本では欧米に比べると乳がんの発生数は少なかったのですが、ところが、1980年と比較すると、この約30年間で乳がんの発生は5倍以上に増加しています。現状では、年間に約7万人が乳がんにかかっていた(これを「罹患」と言います)、女性のがんでは胃がんを抜いて、今や最も多いがんとなっています。なお、これだけ急激に乳がんが増えた理由に関しては、食生活や生活習慣が欧米化した結果だと考えられています。
その乳がんですが、具体的には、母乳を分泌する「乳腺」の組織に発生します。ただし、他のがん細胞が急激に増殖することが多いのに反して、乳がんはゆっくりと成長する傾向があり、1㎝成長するのには約7年かかるといわれています。
また乳がんは、多くの他の部位に発生するがんが、年齢を重ねると増加していくのが一般的であるに対して、40代後半にピークを迎えるという特徴があります(この年齢層が乳がんの発生数の半数近くを占めます)。こうした特別な傾向が見られるのは、乳がんと「エストロゲン」と呼ばれる女性ホルモンが強く関わっているためだと考えられています。これで分かるように、乳がんは、若い頃から注意が必要ながんです。
仁尾 義則 氏
<乳腺外科医>
医療法人喜水会 乳腺外科 仁尾クリニック 院長