乳がんは、乳房という女性にとって大切な臓器に発生するがんです。また、30~40代という若い層を中心に20代などにも見られるがんということもあって、他のがん以上に患者の精神的に与えるダメージが大きいがんといわれています。そのため、肉体的なリハビリテーションと同等に『心のリハビリテーション』も重要になります。
多くの医療機関などの調査で、乳がんを発症した患者の多くには、不安と抑うつ(「適応障害」や「うつ病」)が見られるとの報告がなされています。また、積極的なケアをしなかった場合には、不安や抑うつ状態は術後1~2年以内の患者では10~30%、再発後の患者では40~50%程度に見られるという報告もあります。
「適応障害」の場合、眠れないとか家事が手につかないといったように日常生活に支障をきたすような精神症状が見られます。そして、抑うつ気分や興味・喜びの喪失といった一般的な「うつ」の状態が起こるのが「うつ病」です。乳がんの場合は、例え、一部であっても乳房の損失といった女性の自己同一性(アイデンティティ)の喪失が起こりやすいため、うつ病の発生につながることも多いことから用心が必要です。
特にうつ病の場合は、一般的に他者からは分かりにくいこともあり、乳がんの手術を受けた人に少しでもおかしな兆候が見られたならば、遠慮することなく、専門家のカウンセリングを受けるように勧めるのはもちろん、薬物療法も厭わないことが肝心です。
仁尾 義則 氏
<乳腺外科医>
医療法人喜水会 乳腺外科 仁尾クリニック 院長