大腿骨近位部骨折の術後は、次のような合併症にも注意しておく必要があります。
・感染症
ごくまれですが、手術部位に菌が入りこみ化膿することがあります。この場合は、再度手術して排膿したり、骨の固定に使用した器械の抜去が必要になる場合があります。一般に感染は術後1年まで起こるといわれています。入院中には、感染予防のために抗生物質の点滴を行い、定期的な血液検査を行って、感染が無いかどうかを調べます。
また退院してからも、手術部位の痛みが増強したり、赤く腫れ上がったりした場合は、主治医のいる病院へできるだけ早く受診することを忘れないでください。
・脱臼
これは、人工物に置き換える手術の後(特に~6ヶ月後まで)に起こりうるものですが、脱臼は股関節を過度に曲げたり、捻ったりした時に起こることがあります。
ひとたび脱臼が起こると、なかには繰り返して起こりやすくなるので注意しましょう。主治医、リハビリの先生などから脱臼の仕組みを聞いておくことが重要と考えます。ときに装具などの器具が必要なときもあります。
・人工関節の弛み
人工物に置き換えた場合には、耐用年数が存在します。入れ歯が緩むのに似ています。主に人工物と骨との間に弛みができて、人工物が骨を削ることが問題になります。骨が削られるわけですから、痛みがでたり、人工物の先端が骨に当たって骨折をきたしたりします。ひとたびこのようなことが起これば、一度目の手術よりも大きい再置換手術が必要となります。人工物に置き換える手術をうけたかたは、いくら調子が良くても、年に一度の定期診察は続けるようにしてください。
・深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)
これも下肢の骨折、手術後に特に起こる合併症ですが、怪我をした後や、手術中・術後に体を動かさずに寝ていると下肢の静脈の流れが悪くなって血液の塊(血栓)できることがあります。血液の塊で血液の流れが更にわるくなって、ふくらはぎを中心に足が腫れたり、痛みを感じたりすることがあります。さらに問題なのは、その血栓が血流に載って、肺や脳、に流れ込んで血管を詰まらせることがあります(塞栓症)。これは命に関わる重篤な合併症です。これを予防するには血栓予防薬の投与、弾性ストッキングの着用、加圧ポンプを用いた足部マッサージなどを行います。
他にも高齢者に頻度の高い合併症(せん妄、認知症の進行、誤嚥性肺炎など)がありますが、ここでは割愛させて頂きます。
福井智一氏
医療法人医誠会
医誠会病院
整形外科