がんは「何らかの原因によって遺伝子が傷つき、それによって異常に増加する『何にもならない細胞』が増える病気である」と他章で紹介しました。私たちの体内では、常に新しい細胞が誕生しているため、それらの中にはがんの元になる、いわゆる「がん細胞」も、実はしばしば発生しています。しかし、通常の状態であれば、そうした細胞は、生物が持っている免疫力などによって、発生するとすぐに退治されるため、そう簡単にがん細胞が、そのままがんになることはありません。
それでも、どうしてがんになるのかというと、1つには遺伝子的な要因が挙げられます。特に乳がんは、遺伝子的な要素が強いがんだといわれています。そのため、例えばお母さんや姉妹の中で乳がんになった人がいて、それが複数であったりするとなりやすい性質を受け継いでいる可能性があります。
これを「遺伝子性乳がん」といい、こうした傾向は「卵巣がん」でも見られます。ちなみに、BRCA1またはBRAC2という遺伝子に変異があると乳がん・卵巣がんになる可能性が高くなることが分かっています。
最近、こうした遺伝子性による乳がん・卵巣がんの予防はアメリカなどで注目を浴びていて、あるアメリカの論文では、全ての乳がんの1割ほどが、こうした遺伝子が原因の乳がん・卵巣がんであるという統計も発表されています。実際、アメリカの有名な女優であるアンジェリーナ・ジョリーが、まだ発症していない段階で、2013年に乳がん予防のために両乳房の切除手術、さらに2015年には卵巣がんの予防のために卵巣と卵管の摘出手術を受けたのは、母親が乳がんだったからだといいます。
仁尾 義則 氏
<乳腺外科医>
医療法人喜水会 乳腺外科 仁尾クリニック 院長