厚生労働省では、毎年、人口動態調査における人口動態統計(確定数)を公表しています。その2014年秋に発表された2013年度の概要で、日本人の死因のトップになったのは、「悪性新生物」、いわゆる「がん」でした。ちなみに、がんは、「悪性腫瘍」という言い方もされますが、厳密には必ずしも同じというわけではありません。しかし、一般的に広く認知されていることから『がん=悪性腫瘍』という表現がされることが多く、一般的には同義語と考えられています。
その「がん」ですが、日本では「癌」という漢字が使われています。これは、その昔、死因を調査するために解剖した際に、がん細胞が岩のような塊に見えたことから「癌」という漢字になったといわれています。実際、英語の「cancer」という呼び名も、古代ギリシア語の「karkinos(カルキノス=カニ)」に由来しているというように、がん細胞は、私たちの体内にある正常な細胞とは全く違う姿をしています。
そのがん細胞が発生するのは遺伝子の異常によってだと考えられています。人間の身体では、次々と新しい細胞が生まれていますが、何らかの原因によって遺伝子に傷がつき、皮膚なら皮膚、骨なら骨に生まれ変わるはずだった細胞が正常に発達せず、何の役割を持たない、ただ急激に増殖する細胞になってしまったものが「がん細胞」です。
そのがん細胞は、別の場所に入りこんだり(これを「浸潤」といいます)、他の臓器に取りついて増殖したり(これを「転移」といいます)して、正常な組織の働きを阻害したり、あるいは届くはずの栄養を横取りしたりします。その結果、それぞれの細胞が果たすはずの役割ができないようにしてしまい、最終的にはがんが発生した部位の機能が失われ(これを「不全」といいます)、最悪の場合は死に至ってしまうことになります。
仁尾 義則 氏
<乳腺外科医>
医療法人喜水会 乳腺外科 仁尾クリニック 院長