日本人の死亡原因は、時代と共に変わってきています。1950年頃までは「結核」で死亡する人が最も多かったのですが、1960年頃から「脳卒中」による死亡者が増えて結核を抜いて1位となりました。
その脳卒中の1つが、何らかの原因で脳の血のめぐりが非常に低下して引き起こされる「脳梗塞」です。ちなみに、現在起こる脳卒中の約4分の3は脳梗塞だと言われています。
脳は人間の身体で最も酸素を必要とするため、酸素を運ぶ血液が届かなくなると、すぐに脳組織は酸素欠乏や栄養不足に陥ってしまいます。そして、その状態が少し続くと、血液が止まった脳組織は壊死(えし)してしまうことになります。
脳は、私たちの「食べる」や「歩く」、「しゃべる」といった意識しなくてもできる複雑な行動を自然に行っています。ところが、脳梗塞になると、そうした人間の行動をコントロールしている脳の一部が破壊されるため、もし命をとりとめたとしても、身体に何らかの障害が残ってしまうわけです。もちろん何も無く、無事に治る人もいますが、何らかの障害が残る方が約6割もいると言われています。
ところで、一口に「脳梗塞」と言いますが、起こる原因は、大きく「ラクナ梗塞」、「アテローム血栓性脳梗塞」、「心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)」の3つがあり、それぞれの症状も異なっています。
これらの中の1つ「ラクナ梗塞」は、加齢や高血圧などにより、脳の深部にある直径が1mmの2分の1から3分の1ほどという非常に細い血管が詰まってできる小さな脳梗塞で、1960年代に最も多かった脳梗塞です。しかし近年は、健康診断などによって高血圧の予防などが行われるようになったことから、発生数は減少しています。
正門 由久 氏
<リハビリテーション科専門医>
東海大学医学部 専門診療学系 リハビリテーション科学 教授